道具の選び方

目的に合った道具を正しく選び抜くことは、プロフェッショナルに求められる技術の一つではないか。
トレンドや煌びやかな外観に誤魔化されることのない原理原則に則った正しい知識は、
いかなる時代が到来しようとも、流されない『一生モノのスキル』となろう。

道具の選び方



『inch』表記
『inch』表記
刃物大国日本における理美容シザーズの歴史は、1960年代に来日したヴィダルサスーンのカット理論の普及がその原点であろうことは、おおよそ史実に相違ない。
この頃からいくつものシザーメーカーが色々の“自社規格”によりオリジナルのシザーズを造り出してきた。
戦後、日本に次々と流入したファッションに合わせてヘアスタイルも様々に変化してきたが、こういった時代の要請が、現代のバラエティに富んだ日本のモノ造りに多大に寄与している。
しかしながら自社規格の乱立は、需要者(使い手)へ誤認と混乱をもたらしたこともまた事実である、その一つが理美容シザーズのサイズを表す『inch』表記である。

『inch』表記

一口に“○inch”と表記しても、下図に示した通り無限大のバランスがある。
また、どこからどこまでの長さを計測して『inch』として表記しているかについて、統一されていない現状がある。
シザーズの全長を採寸する際、刃先は一点に決定するがレスト(小指掛け)を含む方法もあれば、含まない方法もある。
ヴィダルサスーンが提唱したミニカットシザーズは、そもそもレストがない4.5~4.8inchクラスのメガネ型であった。
このミニカットシザーズに世界で初めてレストを取り付けた(正確には取り外し可能なネジ着脱式レスト)シザーメーカーこそがKIKU SCISSORSである。
KIKU創業者は、改良してもヴィダルサスーンのカット理論に忠実に、原理原則から逸脱しないようオリジナル規格でなく、全長採寸には“刃先ーレストを除いた指環外縁間距離”をそのままに踏襲し、採用してきた。


inch表記

また、シザーズの全長とは『刃長』と『ハンドル長』の総和として表記されることが基本であるが、“○inch”という一つの規格製品においてもこの二つの長さの相対的な比率はメーカー各社によって全く異なるという現状がある。
刃長とハンドル長のバランスは正に“使い心地”へ直結する。



上段(image sample):
刃先ーネジ中心間距離(刃長)が短く、ネジ中心ー指環外縁間距離(ハンドル長)が長い。刃のわずかな開閉にも大きな手指運動を要し、長時間の使用では非常に疲労する。


中段(DC 54DX)
ヴィダルサスーンが提唱したカット理論は、そのカット技術に止まらない。“握る、握り込む、握り返す”といった、あらゆるシザーハンドリングにおいて刃長とハンドル長の最適なバランスを追求した。5.5inch以下のミニカットシザーズは、そういった点においてカットシザーズの基本であり、カット理論の基本である。


下段(image sample):
刃先ーネジ中心間距離が長く、ネジ中心ー指環外縁間距離が短い。少ない手指運動で長い刃を開閉させるため軽快であるが、握り心地が窮屈に感ぜられることもあり注意が必要。



つまり、カタログやウェブサイトでinch表記だけを頼りに選ぶことは、実は非常にあいまいな方法であると言わざるを得ず、今まで使ってきた道具から新しいメーカー製品へ買い換えようという場合は特に注意が必要である。
ヴィダルサスーンの原理原則を踏襲した仕様は、カットの基本であり道具の基本となる。