the Voice.

海をこえて世界中から届くメッセージ、the Voice。

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Voice 01   東日本大震災を経験された技術者から

はじめてお手紙を書きます(お名前)です。
私は2011年3月11日に発生した東日本大震災で被災した美容師です。
私のサロンからは綺麗な海が見え、その景色を見るために通われるお客さんもいる程、ゆったりとした時の流れを感じることのできる場所でした。
小さなちいさなお店でしたが、店内隅々の状況を完璧に把握していられるところが私の身の丈に合っていて、その“ちょうど良さ”が大好きな空間でした。

多く報道の通り、たくさんの方々が家屋を失い、家族を失い、希望も失っている状況の中、海のすぐ傍にあった私のお店も例外ではなく、跡形も無く流されてしまいました。
なにもかも失い、気力もない、もうやめよう、、(ご実家)へ帰ろう。
そんななか、ボランティアで遺失物捜索をされている方からご連絡を頂き収集所へ伺ってみると、流されてしまったとあきらめていた私のシザーケースがブルーシートの上に並べて置いてありました。
ですが、革ケースは泥だらけでボロボロ、肩紐もちぎれてしまっていて、私はわけが分からず「どうして私だとわかったのですか?」とボランティアの方に尋ねました。
「ハサミに(お名前)さんのお名前があったので、地元の方々に聞いたらすぐわかりましたよ、よかったですね!」

5丁入っていたハサミのうち2丁は美容学校で購入したもので、海水に浸かってしまったために赤茶色く錆びてしまい開閉も出来ないほどでした。
ですが残りの3丁は4年程前に購入したキクシザーですが、嘘のように綺麗な状態のまま錆びも全くなく、名前を入れて頂いた箇所もはっきりと鮮明に当時のままだったのです。
むしろ、ハサミに溜まった毛クズや毛垢が海水できれいさっぱり流され、「さぁ、仕事をはじめよう!」とハサミが私に声を掛けてくれているかのようでした。
そしてその後は自分自身の気持ちの整理がつくまでの数か月間、被災者用仮設住宅で住まわれる方々を訪問しボランティアを兼ねて出張美容室をさせて頂きました。

鏡も椅子も流されお店の全てを失っていた私に初めて希望を取り戻させてくれたのは、キクシザーです。
「プロが業務で使う道具だから、流行とかデザインではなく、いつでも最高の仕事ができる品質のものを選んでください」、そう教えて下さった職人さんのお話に嘘はありませんでした。

私は復興進まぬ(被災地)をやむなく離れ、(ご実家)で再度サロンをオープンさせるべく、現在は他店に勤務しています。
私を絶望から救い上げてくれたこのキクシザーとともに、新しいサロンを必ずまた立ち上げます。
本当にありがとうございました、今後も良いハサミを造り続けてください。


(女性、日本)


※ ご本人のお気持ちを尊重をし、抜粋ではなく全文掲載をしています。